あの夏の続きを、今
やがて、1年生が使う西棟の昇降口に向かう道と、3年生が使う中央棟の昇降口に向かう道とが分かれる所に差し掛かった。
「良かったら、昇降口までいこうか?傘ないと濡れちゃうでしょ」
「え、え…いいんですか?わざわざ来ていただくなんて…」
その時だった。
「おーい!松本ーー!今日提出の数学のプリント教えて欲しいとこあるんだけどーー」
松本先輩に呼びかける声が聞こえて振り向くと、3年生の男子がそこにいた。
「え、待って、あのプリント今日提出だったの?今日数学1時間目じゃん。やばい途中までしかやってない」
「マジ?あれ最後の問題難しすぎて分かんなかったぞ、当てられたらやばいからさっさと終わらせとかないと」
「やば、急がなきゃ」
松本先輩は私を傘に入れたまま、その男子と話している。
しばらくして、松本先輩が振り返った。
「えーっと、じゃあ…傘はあげるから、次の部活の時にでも返して。ごめんね、じゃあまたね〜」
先輩はそう言って、持っていた傘の持ち手をぐいっとこちらに差し出す。
「え?」
反射的に手を伸ばして傘を掴むと、その瞬間松本先輩は傘を私に託したまま、さっき来た男子生徒と一緒に、大雨の中をびしょ濡れになりながら中央棟の方に走っていった。