あの夏の続きを、今


しばらくして本番の時間が来た。


ステージの前にはすでに人がたくさん集まっていて、その中にリサの姿も見えた。


全員が椅子に座ったところで、アナウンスがあり、そして演奏が始まる。


このメンバーで吹くのも、あとわずかだなんて────


全く実感が湧かない。想像もつかない。3年生の先輩のいない吹奏楽部なんて。


私にとってトランペットパートといえば松本先輩で、松本先輩はトランペットパートにとって決して欠かすことのできない大切な人だと思っているのに────その松本先輩のいないトランペットパートなんて。


1曲目を吹き終え、2曲目に入る。松本先輩がソロを吹く曲だ。


西島先生が指揮棒を構えると、私の3つ隣に座っている松本先輩がすっと立ち上がり、楽器を構える。


指揮棒が動き出すと、松本先輩のソロが会場に響き渡る。


聴く人の心に響く音だ。


私は横目で松本先輩を見る。


日陰がないからか、さっきよりもずっと、輝いて見える────


思わず心を惹き付けられてしまうその姿。



────その瞬間、私の胸が、何かいつもと違う音を立てたような気がしたのは………



気のせい、なのかな…………?


きっと、気のせい………だよね…………?



先輩のソロが終わって、私はトランペットを構え、最初のメロディーを吹く。


無意識のうちに生まれてくるその感情を、必死に追い払うようにしながら。



こんな感情、あるはずはないんだもの。


あっていいはずじゃないんだもの。



だって、私には────






本当に好きな人が、いるんだから。




ハルトが、いるんだから…………

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