あの夏の続きを、今
涙と引退
【2014年 8月中旬】
私は廊下のような場所にいた。
どうやらA組の教室の前らしい。
降り注ぐ蝉の鳴き声と自分の足音、そして茹だるような暑さに参りそうな私の荒い吐息以外には何も聞こえない。
朦朧とする意識の中でなんとなく歩いていると、レナがいきなり私の前に出てきた。そして、こんなことを言う。
「ねえ、今、そこにハルトいるから、呼んでこよっか??」
「え、ハ、ハルトを!?」
いきなりそんなことを言われて、訳が分からず混乱していると、いつの間にかレナは居なくなっていて、代わりにハルトがそこに立っていた。
「ハルト…?」
私は何か言おうと口を開いたが、その瞬間、ハルトは私に背を向けて歩き出した。
「え、待って!」
私はどんどん向こうに行ってしまうハルトを追いかけて走り出す。
だが、身体が思うように動いてくれない。
まるで水中にいるかのように、走っても走っても、身体が前に進まない。
ハルトの背中は、みるみるうちに小さくなっていく………
「待って、行かないで、ハルトーーーー!!」
魂が溶け出してしまいそうなほど暑い空気をかき分けて手を伸ばし、あちらこちらから聞こえてくる蝉の声にかき消されてしまわないように必死で叫ぶ。
だが、それでもハルトは振り返らない。
代わりに、突然私の前にレナが立ちふさがった。
「あれ、レナ……どうしたの?」
だが、レナは何も言わない。ただ悲しそうな目で、じっと私を見つめているだけだ。
「どうしたの?何か言ってよ……ねえ!レナ!」
レナは口を固く閉ざしたまま、ぴくりとも動かない。
「ねえ、答えてよ!レナーー!!!!」
その瞬間、ピピピピ、という電子音が、どこかから聞こえてきた。