あの夏の続きを、今
ハッと目を覚ますと、そこは、明るい朝日の差し込む私の部屋。
目覚ましの電子音と蝉の鳴き声以外には何も聞こえてこない、いつもと変わらない穏やかな私の部屋。
身体を起こし、やかましく鳴っている目覚ましを止める。
────夢だったのか。
ホッとして胸をなで下ろす。
────最悪な夢だ。なんでこんな大事な日に、こんな夢を見てしまったのだろう────
とうとうこの日がやって来てしまった。
吹奏楽コンクール、中学校B部門、本番。
3年生にとっては最後の本番。
私たちの出番は昼頃からなのに、朝からずっと緊張が止まらない。
今日で引退する3年生のためにも、何としても、最優秀賞を取らなくては。
部屋を出ようとしたとき、ふと机の上に置いてある音楽プレイヤーに目が止まった。
私はイヤホンを耳にはめ、そのプレイヤーで「雲の信号」を流す。
ステージの上でこの曲を吹いている自分の姿を思い浮かべながら。
ゆったりとして柔らかく、暖かく、けれどどこか切なくも感じられる旋律。
その旋律は、今の3年生の先輩たちと過ごしてきた日々の終わりに相応しく思える。
心の中に、明るく、そして優しく響くトランペットの音に、松本先輩の姿を重ね合わせながら、私は曲を聴く。