あの夏の続きを、今


楽器と、楽譜やチューナー、タオルを用意して、パートごとに並び、集合場所へと向かう。


私の少し前に見えるのは松本先輩の背中。


────もう、松本先輩の明るく美しい高音を聴けるのも、これが最後なんだ………


胸の内に込み上げる何かをぐっと押し込んで、先輩たちの後に続いて歩き出す。


人混みの中を通り抜け、舞台裏へ。


奥へ奥へと進んでいくにつれ、緊張がどんどん高まってくる。


心臓は激しく鳴り続けていて、その音は周りに聞こえそうなほどだ。



────大丈夫なのかな。


────大丈夫。やれるって。頑張ってきたんだから。



自分で自分に言い聞かせる。


そして、私たちはチューニング室へと向かう。


真っ白な壁。低い天井。スピーカーからは他校の演奏が聞こえてくる。


もうすぐだ。もうすぐ、本番だ。


吹奏楽祭の時は、本番が近づくと落ち着きがなくなっていたカリンも、今は何も言わず、泣きそうなのをぐっと堪えるような顔をして、トランペットをぎゅっと握りしめている。
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