SUMMER PARTY NIGHT
蝉が鳴き止んだ夜の東京は、月明かりに照らされて大人たちが遊びだす。
そんな大人の仲間入りをしてから5年目。
看護師の仕事もようやく慣れてきた頃、まるでお姫様のように扱ってくれている1人の外国人に骨抜きにされていた。
「ねえ、イーサン……」
ナイトプールの片隅で、ブロンドの髪と青い瞳を持った男イーサン・フローレンスは手に2つのカクテルを持って板倉翔子(いたくら しょうこ)に深くキスをする。
「Syoko,I like your eyes.Your eyes illuminated by the moon are like stars.(翔子、僕は君の瞳が好きだ。月に照らされてまるで星のように輝いているね)」
聞きなれた彼の発音はまるで母国語と同じようにはっきりと聞き取ることが出来る。
「Thanks……。(ありがと……)」
聞きなれているのと甘い言葉に慣れているのとでは全く意味が異なる訳で、夜の闇に紛れて赤い顔は隠されている。
5つも年下とは思えないほど、イーサンは余裕だ。
家がお金持ちなのか、看護師として働いている翔子よりもお金を持っている。
デートの費用はいつも彼の奢りだ。
一度支払おうとして頑張ったのだが、優しく断られてしまった。
「ボクハモット、ショウコニツイテ、シリタイデス」
片言の日本語は、彼が翔子に出会ってからたくさん勉強した証拠だ。
知り合った1ヶ月前は全く日本語を話すことが出来なかった。
日本に住んでいる親日の叔父を訪ねて来て、ホテルのプールで遊んでいる最中に翔子のことを見つけたらしい。
友人もお構いなしに、翔子に猛アタックをかけたイーサンと結局毎日会っている状況だ。
会う場所はいつもイーサンの滞在しているホテル。
身体の関係を持つわけでもなく、ご飯を食べたり他愛のない話をしたり。
今日は猛暑日だったので、プールに入ってゆっくりしようということになった。
身体の関係はないと言っても、彼のスキンシップは日に日に激しくなっていき、キスまではすようになった。
「キョウハ、ドンナコトアッタ?」
夜のプールは人工的な青さが際立っていて、少しだけ眩しい。
顔立ちが整ったその男と同じように。
「今日は……色々あったよ」
そうやって1日の出来事を彼の中に明け渡していく。
まるで恋人同士のような関係だが、彼からは何の言葉もない。
結局、彼はいつ帰るのかそして自分のことを都合の良い存在だと思っているのか聞けないままだ。