SUMMER PARTY NIGHT


「それが何?」


自分でも驚くような冷たい声が出た。


これでいい。


彼を解放すれば彼の人生は上手くいく。


彼は幸せな人生を歩むことが出来る。


明日からどうやって生きて行こう。


来年の8月12日はどうやって過ごせばいいのだろう。


震える身体を紛らわせることが出来るのだろうか。


「めぐみ……」


「じゃあ、さよなら。元気で」


「めぐみ!」


逃げるようにして、部屋を出ていく。


スマートフォンの電源を落とした。


もう追いかけてこないで。


エレベーターはちょうど来ていた。


待ちわびていたかのように、その扉はあっさりと開き彼女を1階まで連れて行った。


きっと不在着信がたくさん来ている。


心配性で優しい彼だから。


親友に頼まれたら断れないようなお人好しで、責任感のある彼だから。


「俺の彼女に何かあったら頼むよ」って。


きっと祥吾なら言う。


自分に何かあった時のために、めぐみが不幸にならないようにと全力で守ろうとしてくれる人だった。


息を切らしながら、外に出る。


ネオンの先には、真っ暗な夜空が広がっている。


「……祥吾。ごめん」


悠也のこと好きなの。


大好きで、仕方がないの。


ずっと大学の時から。


こんな利用するような愛し方、もう我慢できない。


あの日、ジュースを買ってこようとしてくれたのは本当は別れ話だって気が付いてたんでしょ。


悠也と幸せになれよって言ってくれるつもりだったんでしょ。


だから、私がちょっと素っ気なかったのに機嫌を取ろうとしてくれたんだよね。


俺は気にしてないよ。


邪魔ものは消えるよって。


「……祥吾」


一瞬でもあなたのことを捨てようとした私を許して。


悠也とは一緒にならないから。


彼を、あなたの大事な親友を幸せにするために、私は身を引くから。


真夏の夜。


花火が消えた後、彼女はまたもう一人の愛する人を失った。


真夏の夜に生まれる恋は、私達をひどく刺激する。



Fin
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