SUMMER PARTY NIGHT



先ほどの営業スマイルはどこにいったのかというほど、素の状態で車の椅子に座って浩志は溜息と共に「あー、疲れた」と言葉を吐きだした。


「ジュースいつ買ってくれるんですか?」


「あ?佐藤と種村を二人にするための口実に決まってんだろ。頼まれてたんだよ」


「騙したんですか?」


「買わないとは言ってない」


少しくらい休ませろよ。


普通の女の人だったらメロメロになるような、低く甘い声で浩志は言った。


ハンドルをトントンと叩く音が、少しだけ空いた窓から聞こえるさざ波と音と重なる。


「なあ」


「何ですか?」


「星野って彼氏とかいるの?」


静かな車の中で、波の音がどんどん大きくなったような気がした。


心臓の音がうるさい。


聞こえてしまうのではないかと心配になる。


まるで中学生の初恋の時のように。


今が夜でよかったと少しだけ安心する。


真っ赤に染まった顔を見られなくて済むからだ。


「何でですか?」


平静を装って言葉を紡ぐ。


「いや、なんとなく。いんのかなって。男っ気なさそうだから」


顔だけこちらに向けて浩志は言った。


「半年前に別れてからフリーですけど?」


「いい人とかいないの?」


「いたら、こんなに仕事熱心にしてませんよ」


「あっそう」


素っ気なく返されて、少しだけ落ち込む。


興味がないのは、知っている。


だが、もう少し興味を持って話を聞いてほしかった。


「そりゃあ、青山さんみたく女の人とっかえひっかえ出来たら人生楽しいと思いますけどね」


自分でも意地悪い言葉が出てしまったと少しだけ反省するが、青山はあまり気にしていない様子だった。


「女とっかえひっかえ出来たらいいけど、あいにく俺も彼女いないんで」


「え?うそ」


「お前にうそついてどうするんだよ」


「だって、色んな女の人と歩いてるって……」


「ああ、俺4人兄妹で姉が2人と妹いるから、それじゃない?」


「そ、そうなんですか?」


驚く亜美に浩志は悪戯っぽい笑みを浮かべて「もしかして、お前俺のこと好き?」と冗談めかしたような口調で言った。


今までだったら「セクハラですよ!」と返すことが出来たのに、何故だか返事が出来ない。


「……はい」


静かに答えた。


沈黙が車内に広がった。


最初に仕掛けたのは浩志の方だ。


亜美はその仕掛けにのっただけ、30近い女なのだ。


いくら心臓がバクバクと激しく鼓動を鳴らせようと、恋愛を重ねてきた分どうやって動けばいいかということは頭が分かっている。


「付き合ってみる?」

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