atonement
あれから時は経ち、もうあの事件を覚えている人は少ないだろうし、わざわざ掘り返すようなことではないと、誰にも話さないでいる。
父はまだ刑務所の中にいる。とはいえ両親は事件後に離婚しているのであの人はもう父親ではない。だとしても、事件後の俺たち家族の生活はあまりにも酷く、しかしそれから逃げられるような立場でもなかった。
俺たち家族への度重なる嫌がらせや脅迫、母も職を失い、元の家には住んでいられる状況ではなくなった。身を隠すように引っ越し、その先で静かに静かに生活をするしかなかった。まだ幼かった俺と兄を必死で守り抜いた母も、精神的苦痛、ストレスや疲れによってみるみるうちに弱っていってしまった。
俺と兄を引き連れて心中をしようとしたことがあったが、結局そんな勇気もなく、母は子供のように泣いていた。
その日以降、母は完全に壊れてしまい、重度の鬱病で、何にもできなくなってしまった。
それからは祖母に助けてもらいつつ、兄は猛勉強し、高校卒業後は大手企業に無事就職し、今家族を支えてくれている。
俺も早く兄のように、家族を守っていける人間になりたいんだ。