atonement
それにしても、どうして彼女がこの学校に?事件の時から住所が変わっていないのだとしたらそこそこ距離はあるし、わざわざ遠くから通うような学校ではないのに。
とにかく、彼女は俺に気づいていないようだった。
俺たちが顔を合わせたことがあるのは裁判のときの数回くらいだったからあたりまえではあるが、向こうは三年生で俺は一年生、この一年間、関わらないように気付かれないように過ごせば、なにも起こらずに済むだろう。
「おい和人?おまえぼーっとしてるけど本当に大丈夫か?」
ぽん、と肩に手を置かれはっとする。
体調悪いなら帰りなよ?と真面目に心配してくれている裕と俊明。
この2人にも何も教えていないのは少し心苦しい。全部話したところで俺のことを偏見で見るような奴らではないとわかってはいるんだけど、なかなか言い出せないでいる。
「ほんとに大丈夫だから、気にしないで」
それから1日ずっと考えていた。
もしもバレてしまったら、俺はたぶんこの学校にはいられなくなるだろう。
彼女のことをよく知っているわけでもないが、犯人の家族をどう思うだろう?やはり恨むのだろうか。きっと軽蔑の目で見るんだろうな。
またあんな孤独な思いをしなきゃいけないんだろうか...
このことを母と兄に話そうか迷ったが、下手に刺激してまた母の精神状態が壊れてしまっても良くないと思い、自分の中だけにとどめておくことにした。