氷のヒカリ
零
真夏の深夜、俺が雇われている会社の屋上。
目を背けたくなるくらい、満月が輝いている。
そよ風が優しく俺の頬を撫でる。
風の音を聞く、という似合わないことをしようと目を閉じると、ドアノブが回される音のほうが先に聞こえてきた。
闇社会に入って、何人も殺してきたから、俺の敵は多い。
だから、ドアを開けようとしているのが敵だと思い、数少ない物陰に隠れる。
「氷(ひょう)、次のターゲットが決まったわよ」
聞こえてきた声で、俺はその人物の前に姿を現す。
目の前にいるのは俺の直属の上司、笑里(えみり)さん。
もちろん、コードネームというやつだ。
俺の場合、氷。
笑里さんからターゲットについての資料を受け取る。
「この仕事、確かに承りました」
ズボンのポケットから黒い手袋を取り出し、装着すると、笑里さんは建物の中へと消えていった。
< 1 / 23 >