騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「……頼むから、これ以上、心配事を増やさないでくれ」
「……っ!」
「俺は一体、どれだけ気を張り続けたらいい」
ハァ……と、言いながら溜め息を零したルーカスは、ゆっくりとビアンカを自身の身体から離した。
未だに身体に残る不快感は、ダラム国王が残したものだ。
もう少し──ほんの少しだけでもいいから、今はその記憶ごと、ルーカスに消して欲しかった。
ワガママなんて言わない。ただ、抱きしめていてほしかったのに……。
「そもそも、何故こんな場所に一人で来た。お前には、今日は護衛を二人つけていたはずだ」
「そ、それは……私が、どうしても庭園内を一人で歩きたかったから……。無理を言って、二人には入口で待っていてもらっているの」
ビアンカの言葉に、ルーカスが呆れたような息を吐く。
「……お前は、何もわかっていない。俺の妻であるということをいい加減自覚しろ。俺がお前に護衛をつける意味を、もっとよく考えろ」
「……っ」
ルーカスの背後には、美しい薔薇たちが咲き誇っている。けれどその薔薇が涙で滲んで、段々と見えなくなった。
「……ビアンカ?」
──ただ、ルーカスに会いたくて、ここに来ただけだった。
みんなが綺麗だと褒めてくれたドレス姿を、ルーカスに見てほしくて。
ルーカスなら、なんて言ってくれるだろう。
綺麗だって、可愛いって思ってもらえるんじゃないかと──そう思っただけだったの。
そして、ルーカスにそう言ってもらえたなら。苦しいコルセットも、気の重い晩餐会も、ルーカスの隣で笑顔のまま乗り切れると思ったから。
この場所で、もう一度、二人で。
出逢った日のことを思い出し微笑みあいたいと、ビアンカはただ、そう願っただけだった。