騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
……ああ、そうか。
ようやくそこで、ビアンカは自分の気持ちを自覚した。
自分はいつの間にかこんなにも、ルーカスに惹かれていたのだということを。
「……っ、ビアンカ?」
けれど、自覚したと同時に胸に押し寄せたのは言いようのない不安だった。
ビアンカは自分に向かって伸ばされたルーカスの手を咄嗟にすり抜け、目に滲んだ涙を瞬きで払うと静かにルーカスに向き直った。
「ビアンカ、お前──」
「申し訳ありませんでした……以後、気を付けます」
「……っ」
「ルーカス様の妃として、恥じない行動を心がけます」
精一杯、王女らしく。そうしないと、ルーカスにも愛想を尽かされてしまうのではないかという不安。
伝わらない想いのもどかしさに、涙が滲んだ。
「……失礼、致します」
「ビアンカ、待て……っ」
そうしてドレスを持ち上げ頭を下げたビアンカは、踵を返すと、ルーカスを残して足早にその場をあとにした。
身体に残るのは、自分に触れた生温い、ダラム国王の手の感触だ。
悪いのは、自分。ルーカスの言うとおり、ノコノコと国王に成されるがまま、ついていった自分が悪い。
「……っ」
ビアンカは一度も振り返ることもせず薔薇の咲き誇る庭園を抜け王宮内に駆け込むと、長い廊下を只管に早足で歩いた。
自分を待ってくれているであろう護衛の二人の顔が思い浮かんだが、来た道とは別の出口から庭園を抜けたビアンカが彼らと会うことはなかった。
(……ごめんなさい。でも今は、誰にも会いたくないの)
こんな情けない、今にも泣き出しそうな顔は……王宮にいる誰にも、見られたくない。
初めて知った、恋心。
ルーカスに拒絶されたくらいで女々しく泣く自分を、ビアンカは自分自身で持て余していた。
* * *
「はぁ……」
── 一体、どれくらい、歩いただろう。
しばらく歩いて頭を冷やそうと思っていたビアンカは、いつの間にか王宮内でも人気のない、静かな場所に足を踏み入れていた。
薄暗い、古い芸術品が並べられているような場所。
ひんやりとした空気がなんだか恐ろしくて、どこか違う場所に来てしまったみたいだ。