騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
気が付くともう、陽が沈みかけている。
……戻らなきゃ。このあと晩餐会があるのに、こんなところで油を売っていたら、また、ルーカスに迷惑をかけてしまう。
これ以上、彼をガッカリさせるようなことがあれば、今度こそ愛想を尽かされてしまうかもしれない。
「──ビアンカ・レイヴァだな?」
「──っ!」
けれど、ビアンカが踵を返して来た道を戻ろうとした時。唐突に背後から名を呼ばれて肩が揺れた。
静かに振り向くと、そこには頭から真っ黒なフードを被った、大柄の男が立っていて思わず目を見開いて固まった。
「こんなところでお会いできるとは、俺はとても運がいい」
「あ、あなたは……?」
「おっと、ここでゆっくり話している時間はないんだ」
「──!?」
直後、黒い影が彼女を襲った。
(……何!?)
慌てて手足を動かしてみたものの、ビアンカは口元に厚い布をあてがわれ、その場で意識を手放した。
ダラリと、力なく下がった細い腕。
ビアンカの髪についていた金色の髪飾りが、小さく音を立てて冷たい床の上に落ちて弾んだ。
「……お前には、鴉を殺すための餌となって頂こう」
闇の中で嗤う影。氷のように冷たい手。
ビアンカの身体を抱えた男は、眠る彼女を見て楽しそうに、目を細めた。