騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「失礼しました。少々手が、滑ってしまいまして」
言いながらビアンカは、努めて上品に微笑んだ。
そんなビアンカを見て、ハッと我に返った王太后はたちまち目を血走らせ、ビアンカのことを睨みつける。
「無礼者!! 一体何を、考えている!!」
冷たい水が一瞬で沸騰しそうな剣幕で怒り、声を荒げた王太后。
けれどそれをニッコリと微笑み受け止めたビアンカは、すぐに顔から表情を消す。
「あまりにも腹が立ったので、我慢ができませんでした」
ビアンカが飄々と言ってのけると、その場にいた全員がゴクリと息を呑んだ。
「王太后陛下。あなたの言い分は、あまりに身勝手です」
「な、に……?」
「結局あなたは、セントリューズのため、オリヴァー国王陛下のためと言いながら、自分の立場を守りたいだけなのでしょう。自分の思うままに周りが動かないと気がすまない子供だわ。全てが自分の思い通りにいくことなんて、ないのに……」
本来なら、こんな口を叩いて許されるはずもない。
それどころか気品の欠片もない言葉。あとでアンナに知られたら、こっぴどく叱られそう。
それでも今は、言葉を選んでなどいられなかった。
腹が立つ。怒っている。一言どころか二言も三言も言ってやらなきゃ気がすまない。
「私、以前、言いましたよね? 私は、ルーカスの正妃である、と。彼の妻である私の前で、彼を侮辱することは……たとえ相手が誰であろうと、私は絶対に許さない」
ルーカスは、騎士団長という立場柄。きっと、ここで何を言われようとも絶対に言い返さないはずだ。
寧ろ、興奮して我を失っている王太后を前に、しめたものだと思っているかもしれない。
自ら罪を自白し、自滅に向かってくれるのだから。ルーカス自身がそう仕向けた以上、彼にとっては王太后に何を言われようとも関係ないのだ。