騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「ハァ……いつになったら、この窮屈なドレスから解放されるの?」
大国セントリューズに温かな春が訪れる頃、ノーザンブル王国第一王女、ビアンカ・レイヴァは優美な馬車に揺られていた。
ベルベットの布地を基調に、細やかな錦糸の刺繍があしらわれた婚礼衣裳。
ビアンカが纏っている豪華絢爛なドレスには乙女の夢が詰まっているというのに、彼女の心は憂鬱に苛まれていた。
いつもよりキツく締められたコルセットのせいで、息をするのも辛い。
その上、何時間も自由の効かない籠の中に閉じ込められていたら、気分も滅入るというものだ。
「今からでも、ノーザンブルに帰りたい……」
「ビアンカ様、弱音を吐くのが早すぎます」
侍女のアンナが呆れたように息を吐く。
癖のある赤毛に、ふくよかな身体をしたアンナは幼い頃から一番近くでビアンカの身の回りの世話をしてきた、ビアンカにとっては第二の母のような存在だ。
アンナは長年ビアンカに仕えてきたせいか、侍女だというのに愛想がない。
けれど、身分が上である自分に対しても物怖じしないところを、ビアンカはとても気に入っていた。