騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「ねぇ、アンナ。せめて、このコルセットだけでも緩めてくれない?」
「無理です。これから婚儀がありますし、まだまだ先は長いのですから、いい加減シャンとしてくださいな」
そんなことを言われても、辛いものは辛いのだから仕方がないのだ。
ビアンカの気持ちは今すぐにでもドレスを脱ぎ捨て、柔らかなベッドに飛び込みたいところ。
こんなことを言ったら、アンナに怒られるだろうし、口が裂けても言えないけれど……。
そもそもビアンカには、自分がこれから婚儀を行う花嫁であるという実感がなかった。
なぜなら肝心の夫となる男──セントリューズ王国第二王子、ルーカス・スチュアートの顔を知らないからだ。
「ねぇ、アンナ。ルーカス様は……今も昔と、変わらないまま?」
けれど、目下の顔は知らなくとも、遠い昔にたった一度だけ、ビアンカはルーカスと会ったことがあった。
幼い頃に、一度だけ。ビアンカは彼と、話しをしたことがあるのだ。
「相変わらず花がお好きで、お優しいのかしら……」
つぶやくように言ったビアンカの言葉に、正面に座すアンナがビクリと大きく肩を揺らした。
あからさまに視線を泳がすアンナを見て、ビアンカは思わず首を傾げる。