騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「……月の障りに入られたわけではないですね」
アンナの言う月の障りとは、月に一度ある、女性特有の事情のこと。
そうなった時は予め侍女が夫であるルーカスに報告し、配慮を求めることになっていて、当然のことながらアンナもビアンカの事情には詳しい。
「う、うん。アンナも知ってる通り、それはまだ、始まっていなくて……」
「それなら、何故!? まさか、ルーカス様に何か問題が!?」
「ア、アンナ?」
まるで、この世の終わりだとでも言いたげに顔色を青くしたアンナを前に、ビアンカはゴクリと喉を鳴らした。
「ルーカス様側に問題があるなんて……まさか、そんな……そんなバカな……!!」
──怖い。アンナが、怖い。
絶望と怒りを織り交ぜたような表情に、ビアンカは彼女にかける言葉を失った。
「マムシか、スッポンか……ああ、女性であればショコラは人気の精力剤ですね……。でもやっぱり、子宝を願うなら蜂蜜か……」
フラリ、身体を揺らしたアンナはそのまま元の場所へと戻ると、ティーワゴンの上のミルクティーを静かに煽る。
それ、私のミルクティー……とは、とてもじゃないがビアンカが口にできる状況ではない。
「闇市で、とんでもない精力剤を仕入れるしかないかしら……」
精力剤……。アンナは今度こそ、とんでもない勘違いをしている。
その上、ビアンカが昨夜ルーカスにぶつけた失言よりも、酷い失言を、今──。