騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「あ、あのね、アンナ。ルーカスに問題があるとかじゃなくて、その、」
「ああ、ビアンカ様。大丈夫ですよ……私も何か、対策を考えますから」
対策。一体、どんな対策を考えるつもりだ。
フフッと妖しい笑みを零したアンナがとにかく不気味すぎて、早く誤解を解かなければとビアンカの背中には冷や汗が伝った。
「ビアンカ様には、なんの非もないのですから」
「う、うーん。寧ろルーカスと昨夜、そういうことにならなかったのは……私のせい、というか」
「……はい?」
「え、と。私のせいで、昨日は、そういうことにならなかったの」
言いながらぼんやりと、ビアンカは昨夜のやり取りを頭の中に思い浮かべた。
自分をやすやすと抱え上げた、逞しい腕。
ビアンカの身体を愛おしむように触れた指先は、優しく、とても丁寧だった。
耳元で囁かれた甘い言葉と──抱き締め合った時に感じた彼の温もりは、今も身体に残っている。
朝、目覚めた時に彼の姿がなくて、寂しさを感じたことも。
ビアンカにとっては全てが初めての経験で、黒い噂の纏わりついたルーカスがその相手であるとは今でもどこか、信じられない。
「あのね……昨日は私が怖くなっちゃって。そしたらルーカスが、無理をしなくていいと言ってくれて、昨日は何もせずに眠ったの」
思い出したら恥ずかしくなって、ビアンカはベッドの上で膝を抱えた。
冷酷無情、無愛想で、笑顔など絶対に見せない男だと思っていた。
何を考えているのかもわからなくて、ビアンカはルーカスとの未来に不安しかなかったのだ。
だけど、今は──ほんの少し、彼に対する印象が変わった。
ルーカスは昔と変わらず、本当は優しい人なのではないか……なんて、ビアンカは甘い期待を抱くまでに変わっている。