騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「……まだ、寝ていなかったのか」
夜、部屋に戻ってきたルーカスは疲れた様子だった。それもそうだ、時刻は深夜0時を回っている。
騎士団の黒いコートをカウチソファーに投げ、彼は白シャツのボタンを二つほど外すと、ベッドの上で膝を抱えるビアンカを横目で捉えた。
月明かりに照らされた美しい黒髪。黒曜石のような瞳に見つめられると、つい息をするのも忘れてしまいそうになる。
「俺の帰りを待たずに、先に寝ていろと言っただろう」
ぶっきらぼうにそれだけを言ったルーカスは、瞼にかかる前髪を無造作にかきあげ息を吐いた。
この一週間、ルーカスはどんなに遅くなろうとも、必ず、ビアンカの待つ部屋へと帰ってきた。
はじめの頃、セントリューズの侍女たちに『どうして部屋が一つしかないのか』と聞いたことがある。
いくら夫婦になったとはいえ毎夜同じベッドで寝るというのはあまり聞いたことがなく、夫がそういう気分になった時だけ……夫婦は同じ部屋で夜を共にするものだと思っていたからだ。
けれどビアンカの質問に、侍女たちは困ったように小さく笑った。
『ルーカス様からの、ご命令なのです。ビアンカ様と自分が過ごす部屋は常に一緒に、と』
それを言われた時には既に、ビアンカはルーカスからの愛の告白を受けた後だったので、ただただ顔を真っ赤にして固まるしかなかった。
アンナとは違う、事情を知らない侍女たちからすれば、ルーカスとビアンカは毎夜、肌を重ねているとでも思われているのかもしれない。