騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「なんとなく……眠れなかったの」
ベッドの上で膝を抱えたまま応えると、ルーカスが動きを止めてコチラを見た。居たたまれなくなって視線を逸らして俯けば、彼がゆっくりとベッドに向かって歩いてくる気配を感じた。
「どうした。何か、不安なことでもあるのか?」
ベッドの前で足を止めた彼は、そのまま静かにビアンカの隣に腰を下ろした。そうして、どこか不思議そうに、黙り込んでいるビアンカの顔を覗き込む。
「何かあるなら、話を聞く」
優しい、声。淡く光る月の明かりのように穏やかで、優しい音色だ。
思わず顔を上げると真っ直ぐに自分へと向けられた綺麗な瞳と目が合って、何故だか無性に泣きたくなった。
「なぁ、何があった」
サラリと揺れる、艶のある黒い髪。長い睫毛が瞬いて、そっと細められる。
彼の男らしい長い指が伸びてきて、ビアンカの目に掛かる前髪を優しく弾いた。
「ビアンカ?」
名前を呼ばれただけなのに、胸が震えた。
ついルーカスに手を伸ばしたくなって、ビアンカは膝を抱えた腕に、ギュッと力を込めて息を吐いた。
「……ルーカスは」
「……ああ」
「私の祖国を、助けてくれたの?」
「…………」
「わ、私の国を助けるために、私との結婚を決めたの?」
ビアンカの声は、彼女自身もわかるほどに震えていた。
それでも真っ直ぐにルーカスを見つめるビアンカの目は、今日も曇りのないヘーゼルの光を宿している。