御曹司と溺愛付き!?ハラハラ同居
あのとき、怒りをあらわに営業所に押しかけてきたお客さまにひたすら頭を下げ続けた。
『私も知らなかったんです』とは言えなかった。

トーリツの一員として働いていた者がそんなことを言う資格はないと思ったからだ。

ひどい罵声も浴び、住む家さえなくなったけれど、あの謝罪は間違っていなかったと今でも思う。


「わかりました」


いったい、一緒に行ってなんの役に立つのかわからない。
でも、一木さんと痛みを分かち合えるのなら、それでいい。


「行くぞ」

「はい」


私たちのその様子を、桑田さんは唇を噛みしめながら見つめていた。


「営業は出先から現地に直接行くそうです」

「了解」


そのまま地下に下り、彼の車に乗り込む。


「巻き込んで悪かったな」

「なに言ってるんですか。私もグローバルアセットマネジメントの一員だと言ってくださったじゃないですか」

「そうか」


やっと彼の表情が少しだけ緩んだ。
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