傘も方便【短編】
「一緒に……ですか?」


「どうせ方向同じだよね?よくエレベーターで見かける。」


あっ、やっぱり。


この人も気付いてたんだ。


とは言え……これまで言葉も交わした事のない人といきなり相合傘でオフィスまで?


想像してみる。


ないわぁ。


それに正直言うとこの傘は私のだって未だ思ってる。


なのに我が物顔でどうぞ、なんて言われてもーーー


癪に障る。


「いえ、お気遣いなく。そこのコンビニで買いますから。」


って店の前でゴタゴタしていると昼時とあって中から食べ終えたお客さん達がゾロゾロ出て来て何となく邪魔だよオーラを出されながら押し退けられる。と同時に気付けば相合傘。


「最初から素直に入れば良いものを。」


そう言うとサササと歩きだすもんだから、


「入りたくて入った訳じゃないからっ。」


と言う文句すらも言えず、ただ大人しくよく知らない人と相合傘でオフィスへと向かう。


子供の時に習ったじゃない?


知らない人について行っては行けませんって。


でもまぁ、いっか。


この人の顔くらい知ってるもんね。


全く知らないって訳じゃない。


にしてもーーー


歩くの早いんだけど。







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