鈍感な二人
政略結婚？いや、恋の予感です
バチーンという大きな音が部屋に響き渡った。


それを覚悟していたアルは、思わず目をつぶっていたが、それでも何が起きたのかは見なくてもわかる。



主人であるクリスフォードが、見合い相手である令嬢にひっぱたかれたのである。



「し、失礼ですわ！！！」



クリスフォードを叩いた令嬢は、涙を浮かべている。それにくらべて、クリスフォードはあっけらかんとしている。それもそのはず、彼は女性に叩かれなれているからである。困ったことに。


「しつれい。私は嘘がつけないたちで。それに、わからないことは知りたくなるのです。」


嘘はつけなくてもいいから、余計なことも言わないでほしいとアルは思った。


令嬢は、泣きながら部屋を出て行ってしまった。彼女に付き添っていた父親は、クリスフォードの無礼な態度に苛立っていたようだが、クリスフォードの方が爵位は上なため何も言うことはできず、しかも、娘が彼を引っ叩いてしまったため、顔が真っ青だ。


令嬢が走り去った後を見ると、同じく主人に仕えるパリスが何事かと顔をのぞかせていた。アルが首を横に振ると、パリスは呆れた様子でため息をついた。


「縁がなかったようですな。」



クリスフォードがそういうと、パリスがやってきて、令嬢の父を部屋の外へと連れ出した。


彼は最後まで、真っ青な顔をしながらクリスフォードに何かを言いたそうにしていたが、結局何も言えないまま出て行ってしまった。


彼のフォローはパリスがすることになるだろう。アルはため息をついて主人を向き直った。



「クリス様いい加減にしてください。」


「だって、アル。お前も気になっただろう？彼女の胴の細さに。顔についている肉や、腕の太さに比べて、胴が細すぎたじゃないか。あれをどうやっているか気にならなかったのか？」


「それは、コルセットと、彼女の侍女の成せる業です。そして、それに男が口をはさむのはご法度です。」


うーんとうなる主人を見ながらアルは困り果てていた。


もう、何度目になるだろう。クリスフォードが縁談の相手に失礼なことを言ってぶち壊しにするのは。
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表紙・目次

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