鈍感な二人
ボーっと外を見ていたエーデルだったが、廊下から何やら声が聞こえてくるのに気が付いた。

今日からエーデル付きとなった侍女のリラかと思ったが、どうやら違うようだ。となると、思い当たる人物は一人しかいない。その人物を思い浮かべたエーデルは、身を固くした。



控えめなノックの音がした。


「はい。」


エーデルが返事をすると、扉が開き、そこには茶器を乗せたお盆を持ったクリスフォードが立っていた。


貴族の男子たるもの、食器を自ら運ぶことはない。


クリスフォードが茶器を持っていることに気が付いたエーデルは、驚いて急いでそれを受け取りに行った。だが、一方のクリスフォードはそんなことを気にする風でもなく、ただ、急いで自分の方へとかけてきたエーデルを見て固まってしまった。


そんな、クリスフォードの態度を見て、エーデルの心はチクチクと痛んだ。


「クリスフォード様、それはわたくしがいただきますわ。」


お盆を受け取ろうと手を伸ばしたエーデルをクリスフォードはまともに見ようともしない。


「あぁ」


そう、短く言ってお盆を差し出したが、エーデルの方をよく見ていなかったせいで、熱いお茶の入った茶器がエーデルの手に当たってしまった。


「あつっ」


エーデルのその声にクリスフォードは我に返った。


「大丈夫か?!」


近くにあるテーブルにお盆を置いて、急いでエーデルの元へ戻った。


「大丈夫か?」


そう言ってクリスフォードはエーデルの手をとる。確かに赤くはなってるが、大事にはなっていなかった。


ほっとしたクリスフォードが。エーデルを見ると、エーデルは、目に涙を浮かべていた。それを見たクリスフォードは驚いた。


「どうした?痛いのか?待っていろ、今アルを呼んで薬を・・・」


そう言って部屋から出て行こうとするクリスフォードの服の裾をエーデルが掴んだ。裾を引かれたクリスフォードは立ち止まってエーデルを振り返る。


「大丈夫です。」


エーデルは下を向いたまま、そう言って首を横に振った。


「エーデル?」


クリスフォードが呼びかけるが、エーデルは下を向いたままクリスフォードを見ようとはしない。そこでようやく、クリスフォードは、エーデルの様子がおかしいことに気が付いた。


ホームシックか・・・


クリスフォードはそう結論づけた。確かに間違ってはいないが根本的なことがずれているのに気が付いていない。


「大丈夫か?」


クリスフォードがそう問いかけると、エーデルは、無言で頷いた。
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