鈍感な二人
「だから、気の許せるものを連れて来いと言ったのに・・・」


クリスフォードが小さく漏らした言葉に、エーデルは肩をすくませた。



クリスフォードの好意を無下にしておきながら、初日早々、故郷を恋しく思っていること咎められたような気がしたのだ。



泣いてはいけない・・・泣いてはいけない・・・



エーデルはそう自分に言い聞かすが、今日一日クリスフォードの態度に傷ついていた彼女の目からは涙がこぼれていた。


エーデルが泣いているのに気付いたクリスフォードは、動揺していた。クリスフォードは、一人っ子であったし、これまで恋愛経験もないので、泣いている女の子を慰めた経験などない。むしろ、今までは、泣いている人間など、めんどくさくて相手にしなかった。


そんなクリスフォードであったが、さすがに、今の状況でエーデルをほったらかすのはまずいとわかっている。



どうすればいい・・・どうすれば



クリスフォードは必死に彼の友人たちが、泣いている女の子をどう慰めていたかを思い出していた。確か、肩を抱いて、優しい言葉をかけるのが良いとか言っていたような気がする。それで女などイチコロだ。と最低な言葉が最後についていたような気がするが・・・。


「とにかく、座ろう。」


そう言って、クリスフォードはエーデルの肩を抱いて茶器を置いたテーブルの方へとエーデルを促した。エーデルを椅子に座らすと、自らも向かいの椅子に座った。


だが、エーデルは下を向いたままで一向にクリスフォードの方を向く気配はない。


困ったクリスフォードは、何かエーデルを元気づけられる話題はないだろうかと考えていた。そして、あることを思い出した。


「そういえば、ブルック家の爵位の件だが、ヘレン殿が継ぐことに決まったぞ」


その言葉に、エーデルはバッと顔を上げた。


「本当ですか?」


先ほどまで泣いていた瞳は潤んでおり、エメラルド色の瞳はキラキラと輝いて見えた。その頬にはしっかりと涙の跡があるが、涙は止まった様だった。


泣きやんだことにほっとしたクリスフォードだったが、エーデルのエメラルド色の瞳に見つめられ、思わず目をそらしてしまった。


「あぁ、本当だ。王から直接聞いたから間違いない。」


クリスフォードがそういうと、エーデルは心から安心したようにため息をついた。







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