鈍感な二人
エーデルは心からホッとしていた。


「ありがとうございます。」

「あぁ」


エーデルがほほ笑えんだが、クリスフォードはエーデルの方を見ることなく、そっけない返事をしただけだった。そんなクリスフォードの態度にエーデルは傷ついたが、それでも彼女はある決断をしていた。


もともと、ブルック家とお母様たちを守ってくださると言うお約束で私は、この家に嫁いだのだわ。だから、クリスフォード様が約束を守ってくださった以上、クリスフォード様が私にどのような態度を取られても、私はそれを受け入れるべきなのよね。


エーデルは、そう心に決めた。


「あの、お茶をいただいても?」


「あぁ、すまない。忘れていたな。俺が入れよう」


「いえ、私が。」

クリスフォードはティーポットに手を伸ばしたが、エーデルが手を伸ばしたのを見て、手を引っ込めた。そんなクリスフォードの態度にエーデルの心がチクチクと痛んだが、エーデルは気が付かないふりをした。


カップに注いだお茶はすでに冷めていたが、それでもバラの良い香りがした。


「これは、バラの香りですか?」


「あぁ。ローズティーというもので、紅茶にバラの花びらを混ぜたものだ。うちの領地で作っている。」


「素敵!」


エーデルは、目をキラキラと輝かせて嬉しそうにローズティーを飲んでいた。


このローズティーはアッシュベルト家の領地の特産品でもあるが、クリスフォードはこれ良さがよくわからない。だが、エーデルの表情を見て、やはりこれは良いもののような気がしていた。



「今日は、すまなかったな。」

「え?」


クリスフォードの突然の謝罪に、エーデルは首をかしげた。


「バラ園の案内の件だ。どうしてもやらなければならない急ぎの仕事があってな。」


「そうでしたの。でもお仕事ならしかたありませんわ。」



今日のクリスフォードのエーデルへの態度は、それだけでは説明がつかないような気がしたが、それでもエーデルはその謝罪を素直に受け入れた。


「俺は、明日、王宮へ参らねばならぬ。少し、忙しくなる。ここはもう君の家でもあるのだから、明日からは好きにするといい。」


「はい。」

元気よく返事をするエーデルを見て、クリスフォードは安堵していた。
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