鈍感な二人
「やはり、君は元気な方が良いな。」


クリスフォードのつぶやきは小さすぎてエーデルには聞こえていなかった。



「あの、お尋ねしたいことがあるのですが・・・」


エーデルが真剣な顔をして言うので、クリスフォードは何事かと身構えた。


「何だ?」


「あの、クリスフォード様のご両親について・・・」


「あぁ、そのことか。」



現在のアッシュベルト家の当主は、クリスフォードである。だから、エーデルの結婚は、王の許しはいるものの、クリスフォードの一存で決進めることが出来る。


クリスフォードは、エーデルに自身の両親について何も言わなかった。だから、エーデルはそれについて何も知らない。だが、妻となった今は、それをそのままにしておくわけにはいかなかった。


エーデルは、自身の本当の両親はすでに他界してしまっており、それは彼女にとって深い悲しみとなっているため、クリスフォードに聞くのを躊躇っていたのだ。


「すまない。何も説明していなかったな。」


「いえ・・・」


「田舎で暮らしている。」


「え?」



クリスフォードの返答は、エーデルが予想していたものと違っていた。クリスフォードが一度も両親について話さないことと、この屋敷にいないことから、クリスフォードの両親は他界しているものと思っていたのだ。



「俺の母は体が弱くてな。父が職を辞して以来、田舎にいる。」


存命と聞いて、エーデルはホッとしていた。だが、両親の話を始めてから、クリスフォードの表情が硬くなったの気が付いていた。


何かあるのだと思いつつ、クリスフォードはそれ以上聞いて欲しくないようで、エーデルは、その話題についてはひとまず置いておくことにした。


「では、また紹介してくださいね。」


そう言ってエーデルがほほ笑むと、クリスフォードは少し驚いた顔をした。そして、また表情を硬くするとエーデルから視線を逸らした。


「あぁ。」


そんな態度のクリスフォードにエーデルは無言で頷いた。



< 16 / 17 >

この作品をシェア

pagetop