鈍感な二人
「お前は子どもだな・・・」


父の声が聞こえた気がして、クリスフォードは内心舌打ちをしたい気分だった。


わかっている。今日のエーデルへの態度も、両親の話をする態度も、決して貴族紳士として褒められたものではない。明らかにスマートさとエーデルへの配慮に欠けている。しまいには、エーデルに気を遣わせてしまった。


「すまない。」


そんな自分を否定したくて、クリスフォードはエーデルに向き直った。



「どうしたのです?」


エーデルは、突然の謝罪が理解できないようだ。


「俺は・・・あまり家族と時間を共にしなかったんだ。父は忙しく、母は病弱でいつもベットの上だった。
 だから、今日、君を妻として迎え入れて、君とどう過ごせばよいのかわからなかった。避けたりして悪かった。」


そう言ってクリスフォードは頭を下げた。


「そんな!クリスフォード様、頭を上げてください!私もまだ、妻としての振る舞いに慣れていないのです。クリスフォード様が悪いわけではありません!!」


「そうだな、お互いまだまだだな。」


そう言ってクリスフォードが言うので、エーデルはホッとしたように笑って頷いた。

エーデルは、嬉しかった。今日のクリスフォードの態度を見て、やっていけるのか不安になっていたからだ。クリスフォードがいかなる態度を取ろうとも我慢しようと思っていたが、やはり、夫婦になるならクリスフォードとうまくやっていきたかった。


「じゃあ、夫婦の手始めとして、エーデル、敬語と、その“クリスフォード様”と言うのを止めてくれないか。クリスでいい。」


「が、頑張ります!あっ頑張るわ!」


元気よく言ったエーデルを見て、クリスフォードも頷いた。



「もう、こんな時間だな。」


時計を見れば、そろそろ日付も変わろうかと言う時間だ。


「本当だわ。クリスフォ、クリスは明日も仕事だから、もう休まないと。」


そうってエーデルは、席を立った。

そして、部屋の扉を開けた。どうやら、クリスフォードを見送るようだ。



さぁ、どうぞお帰りください!!


そう言っているエーデルの態度に、クリスフォードは内心笑った。



やはり、わかっていないか・・・・


だが、そんな彼女も可愛いと思った。



クリスフォードは席を立ち、エーデルの方へと向かった。エーデルはまっすぐクリスフォードを見ていた。クリスフォードもエーデルを見ていた。


自分にほほ笑みかけるエーデルを見て、クリスフォードは、ここへ来て良かったと思っていた。当初の目的は何も果たせていない気もするが。


ただ、部屋を去る瞬間、ちょっとエーデルに意地悪をしたくなった。



「エーデル、お休み。良い夢を。」


そうってクリスフォードはエーデルの口元にキスをした。

若干唇からは外したが、それでもエーデルの顔は一瞬で真っ赤になった。


「く、く、クリス?!」


驚くエーデルに、クリスフォードは微笑みかける。


「お休み。俺の可愛い奥さん。」


そう言って、まだまだパニックになっているエーデルを置いて自室へと戻っていた。





ゆっくり行こう。



クリスフォードは、自室へと戻りながら、そう思った。


だが、夫婦の初夜にもう一歩甘さの足りなかった二人が、何だかおかしな方向に行くことになるとはこの時のクリスフォードには知る由もなかった。
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