鈍感な二人
クリスフォードは、驚いているエーデルを気に留める風でもなく続けた。


「そんな生活から、抜け出したいとは思わないか?」


クリスフォードはそう囁いた。


内心クリスフォードは驚いていた。目の前のエーデルの美しさにだ。みごとなブロンドの髪にエメラルドの瞳、透き通るような肌は、おそらく社交界に出れば注目の的だろう。きっとひっきりなりに縁談が舞い込んでくるはずだ。


そんな彼女を社交界に出さないなんて、継母はよっぽどエーデルにひどい扱いをしているに違いない。


だが、そんなクリスフォードの予想を覆す答えが返ってきた。


「私は、好きでやっているのですわ。お母様は、再三社交場へと出るように言ってくるのですが私は嫌がっているのです。」


クリスフォードは目を丸くした。


話す内容はもちろん、こちらを見てハキハキとしゃべる様子は貴族の令嬢らしくない。彼の中で令嬢は、扇子で口元を隠し、小さな声でしゃべるものだった。


「それはなぜ・・・?」



貴族の令嬢とは、社交界でいかに良い結婚相手に巡り合えるかに命を懸けていると言っても過言ではない。なのに彼女はその社交場が嫌だという。クリスフォードが不思議に思うのも当然だった。


「だって、くだらないんですもの。」


「「へ?」」


今までじっと我慢していたアルも、ついに限界だった。間抜けな二人の声が部屋に響いた。



「だから、くだらないのです。誰がかっこいいと、誰の家柄良いとかそういうのはくだらないのです。」


その言葉に、二人は今度こそ絶句した。


「お母様は、あの見た目ですから、少し誤解を受けやすいのです。」


継母ヘレンは、全体的に顔のパーツが大きめで、しかも釣り目である。またいつも派手な服を着ているため、性格もキツイと思われがちだ。つまり絵に描いたように、意地悪な継母が似合うのだ。


「お母様は、本当にお優しい方なのです。」


「では、なぜ誤解を解かれない?あなたはご存じなかったかも知れないが、ヘレン様があなたを社交界デビューさせないのは、ヘレン様の意図だと思われているのだぞ?」


それを聞いたエーデルは、先日の継母の喜びようを思い出していた。


「おそらくですが、お母様は、こう思ったのではないでしょうか。

 使用人と一緒に畑を耕すのに夢中で、社交界にも興味を示さないような変わり者より、継母に虐げられていることにしておいた方が、良い縁談がくるのではと。」


エーデルの言葉に二人は開いた口がふさがらなかった。
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