クラウンプリンセスの家庭教師
対峙
大股で、どかどかと歩き、カイはノックもそこそこにトリスの執務室のドアを開けた。まだ仕事をしていたのか、いつもの場所にトリスがいて、書類に目を通している。
「……やはり、まだお休みにはなられていなかったのですね」
さすがに、寝室まで押しかけるわけにもいかなかったので、執務室にトリスがいてくれたのは助かった。
「その様子だと、未遂か」
書類から視線を動かさずにトリスが言った。
「ご存知だったんですね、王妃様のああした行動を。……それと、逆さまです、それ」
あわてて書類の向きを変えようとしたとトリスの手を、カイが掴んだ。
「私を贄にでもされるおつもりでしたか! 王妃様の相手をしろと!」
激昂するカイに驚き、トリスが持っていた紙の束が床に散らばった。
「答えてください、どうして、そのように命じてくださらなかったんです。殿下の命令であれば、何にだって耐えてみせましょう。しかしなぜ、言ってくださらなかったんです!」
「言えるわけがない!」
カイが言い終わる前に、ずっと視線をそらしていたトリスがカイを向き、叫ぶように言った。
「母が……お前に目をつけている事には気づいてた。機会をうかがっていた事も。だから招いた。私の知らないところで、そうされるのは嫌だったから!」
トリスの瞳から、大粒の涙が流れていた。
「嫌だ、お前が、私以外の女に触れるなんて、耐えられない」
「……では、責任をお取り下さい。王妃様に媚薬香をかがされました。収まりそうにありません、あなた以外に触れてはいけないなら、あなたに触れる他は無い」
トリスの耳元で、カイが囁く。驚くトリスの答えを待たずに、カイはトリスを抱き寄せて、唇を奪った。トリスの唇の柔らかさを味わいながら、抱き寄せる腕にいっそう力を込める。唇の隙間から、舌を入れようとしたところで突き飛ばされた。
トリスの頬は紅潮し、息が上がっている。よろけた体をささえるように、机によりかかっている。食事会は身内だけのささやかな会ではあったが、いつもより華やかな装いのトリスは、美しかった。カイは、そんなトリスを、このまま机に押し倒し、服を裂き、白い肌をあらわにしたかった。
しかし、できなかった。
「……ご無礼を、お許しください、殿下」
トリスの足元に膝まずき、ドレスの裾を持ち、口づけ、平伏した。
「もし、お許しいただけるのでしたら、私は象牙の塔へ戻りとうございます」
一度、触れてしまった。もう、元には戻れない。トリスの側には居られない。カイは、言葉を待っていた。
「……やはり、まだお休みにはなられていなかったのですね」
さすがに、寝室まで押しかけるわけにもいかなかったので、執務室にトリスがいてくれたのは助かった。
「その様子だと、未遂か」
書類から視線を動かさずにトリスが言った。
「ご存知だったんですね、王妃様のああした行動を。……それと、逆さまです、それ」
あわてて書類の向きを変えようとしたとトリスの手を、カイが掴んだ。
「私を贄にでもされるおつもりでしたか! 王妃様の相手をしろと!」
激昂するカイに驚き、トリスが持っていた紙の束が床に散らばった。
「答えてください、どうして、そのように命じてくださらなかったんです。殿下の命令であれば、何にだって耐えてみせましょう。しかしなぜ、言ってくださらなかったんです!」
「言えるわけがない!」
カイが言い終わる前に、ずっと視線をそらしていたトリスがカイを向き、叫ぶように言った。
「母が……お前に目をつけている事には気づいてた。機会をうかがっていた事も。だから招いた。私の知らないところで、そうされるのは嫌だったから!」
トリスの瞳から、大粒の涙が流れていた。
「嫌だ、お前が、私以外の女に触れるなんて、耐えられない」
「……では、責任をお取り下さい。王妃様に媚薬香をかがされました。収まりそうにありません、あなた以外に触れてはいけないなら、あなたに触れる他は無い」
トリスの耳元で、カイが囁く。驚くトリスの答えを待たずに、カイはトリスを抱き寄せて、唇を奪った。トリスの唇の柔らかさを味わいながら、抱き寄せる腕にいっそう力を込める。唇の隙間から、舌を入れようとしたところで突き飛ばされた。
トリスの頬は紅潮し、息が上がっている。よろけた体をささえるように、机によりかかっている。食事会は身内だけのささやかな会ではあったが、いつもより華やかな装いのトリスは、美しかった。カイは、そんなトリスを、このまま机に押し倒し、服を裂き、白い肌をあらわにしたかった。
しかし、できなかった。
「……ご無礼を、お許しください、殿下」
トリスの足元に膝まずき、ドレスの裾を持ち、口づけ、平伏した。
「もし、お許しいただけるのでしたら、私は象牙の塔へ戻りとうございます」
一度、触れてしまった。もう、元には戻れない。トリスの側には居られない。カイは、言葉を待っていた。