クラウンプリンセスの家庭教師
婚約 の、後
……長かった。思いが通じてからの時間が長かった。事件の収拾に動いたのはトリスだけでは無かった。エデルと共にカイも動いた。必要があれば隣国へも行き、「若いモンが働け」と、ばかりにこき使われた。
意図的にとしか思えないほどにトリスと過ごせない時間、手紙を書くように勧めたのもエデルだった。
「会えない時間が、愛を育てるモンじゃよ」
と、ひときわ老獪な言い方をして、ニヤニヤと笑っており、この人は、こんなに愉快な性格だったろうかと、カイは少し恨みにも思いながら、耐えた。じっと耐えた。
だから、久しぶりにトリスに会った時に、キツく抱きしめすぎてしまった。あまりにも耐えたので、半分自分を見失いかけていたカイにとって、『夜の』『寝室』で、トリスと二人だけという状況は、飲まず食わずの状態で、砂漠で乾ききった目の前に突然現れたオアシスのようなものだった。
服を脱いで、全身で水を浴びたい気持ちだった。
「……殿下」
寝台に、二人並んで座る。少し手を伸ばせば夜毎夢に現れた彼女の実体があるのだ。久しぶりに対面したトリスは、カイの妄想の中の彼女より、少し疲れてはいたが、いっそう美しくなっていた。
王妃の事件は、色々な変化をもたらしたが、とりわけ大きかったのは、トリス自身の気負いがなくなった事のように思える。意識的に隠そうとしていた女性らしさを、自然のまま、あるがままにするようになったトリスは、今までに増して美しかった。
うつむいて、恥じらいで顔を真っ赤にしている様など、愛おしくてたまらない。結婚式はまだだが、婚約の誓いは行った。厳密にはまだだが、一応許される。というか、カイはもう待てそうになかった。
我慢のあまり、襲いかからないように、乱暴にしないように。必死で息を整える。
「……殿下」
もう一度、声をかけ、肩を抱いた。
「あ……っ、あのっ! も……もう、婚約はしたのだ、正式に、カイは、私の夫になる事が決まっている、名前で呼んでくれて……かまわない」
あきらかに緊張して、舌がまわっていないトリスを見て、カイの最後のひとかけらの理性が溶解した。
「トリス」
つぶやいて、唇を塞ぎ、思う存分貪った。トリスは呼吸を整えながら、必死でカイの導きに併せる。唇から耳へ、耳から首筋へ舌を這わせると、トリスが甘く、高い声を出した。トリス自身がその声に驚いて、
「す、……すまない、変な声がっ」
と、焦ったように言ったが、
「……いいんです、どうか、感じるままに、お声を……あなたの、その声、もっと、聞きたいです」
耳元で、カイが言う。呼吸がむず痒く、さらにトリスが嬌声をあげた。
「……っ、ダメだ、耳、くすぐったいっ、ちょっと、待ってっ……」
カイの腕の中で、トリスがもがく。
「耳が……どうされましたか?」
カイは、わざと、ふーーーーっと息を吹きかけた。
「アアッ!! イヤぁ……」
「イヤですか? ……本当に?」
トリスは、口を一文字に結んで、瞳をうるませた。
「……その、私は、よく、わからない、……どうしたら、いいのか」
もう、可愛すぎて、こちらがどにかなりそうだ、と、カイは思ったが、彼女を怯えさせる事は本意では無かった。
「どうか、思うままに……そして、本当に、イヤだったら、辞めます。私はこれから、あなたの肌をあばき、全身にくちづけるつもりです……お嫌、ですか?」
すがるような瞳でうったえる様子のカイを、トリスもまた、愛おしいと思った。
「……イヤじゃ……無い。どうか、カイの望むままに」
それが、最後の言葉になった。二人は、本能のままに、互いを貪り、とけ合い、絡みあい、ひとつづきの生き物のように抱き合ったのだった。
意図的にとしか思えないほどにトリスと過ごせない時間、手紙を書くように勧めたのもエデルだった。
「会えない時間が、愛を育てるモンじゃよ」
と、ひときわ老獪な言い方をして、ニヤニヤと笑っており、この人は、こんなに愉快な性格だったろうかと、カイは少し恨みにも思いながら、耐えた。じっと耐えた。
だから、久しぶりにトリスに会った時に、キツく抱きしめすぎてしまった。あまりにも耐えたので、半分自分を見失いかけていたカイにとって、『夜の』『寝室』で、トリスと二人だけという状況は、飲まず食わずの状態で、砂漠で乾ききった目の前に突然現れたオアシスのようなものだった。
服を脱いで、全身で水を浴びたい気持ちだった。
「……殿下」
寝台に、二人並んで座る。少し手を伸ばせば夜毎夢に現れた彼女の実体があるのだ。久しぶりに対面したトリスは、カイの妄想の中の彼女より、少し疲れてはいたが、いっそう美しくなっていた。
王妃の事件は、色々な変化をもたらしたが、とりわけ大きかったのは、トリス自身の気負いがなくなった事のように思える。意識的に隠そうとしていた女性らしさを、自然のまま、あるがままにするようになったトリスは、今までに増して美しかった。
うつむいて、恥じらいで顔を真っ赤にしている様など、愛おしくてたまらない。結婚式はまだだが、婚約の誓いは行った。厳密にはまだだが、一応許される。というか、カイはもう待てそうになかった。
我慢のあまり、襲いかからないように、乱暴にしないように。必死で息を整える。
「……殿下」
もう一度、声をかけ、肩を抱いた。
「あ……っ、あのっ! も……もう、婚約はしたのだ、正式に、カイは、私の夫になる事が決まっている、名前で呼んでくれて……かまわない」
あきらかに緊張して、舌がまわっていないトリスを見て、カイの最後のひとかけらの理性が溶解した。
「トリス」
つぶやいて、唇を塞ぎ、思う存分貪った。トリスは呼吸を整えながら、必死でカイの導きに併せる。唇から耳へ、耳から首筋へ舌を這わせると、トリスが甘く、高い声を出した。トリス自身がその声に驚いて、
「す、……すまない、変な声がっ」
と、焦ったように言ったが、
「……いいんです、どうか、感じるままに、お声を……あなたの、その声、もっと、聞きたいです」
耳元で、カイが言う。呼吸がむず痒く、さらにトリスが嬌声をあげた。
「……っ、ダメだ、耳、くすぐったいっ、ちょっと、待ってっ……」
カイの腕の中で、トリスがもがく。
「耳が……どうされましたか?」
カイは、わざと、ふーーーーっと息を吹きかけた。
「アアッ!! イヤぁ……」
「イヤですか? ……本当に?」
トリスは、口を一文字に結んで、瞳をうるませた。
「……その、私は、よく、わからない、……どうしたら、いいのか」
もう、可愛すぎて、こちらがどにかなりそうだ、と、カイは思ったが、彼女を怯えさせる事は本意では無かった。
「どうか、思うままに……そして、本当に、イヤだったら、辞めます。私はこれから、あなたの肌をあばき、全身にくちづけるつもりです……お嫌、ですか?」
すがるような瞳でうったえる様子のカイを、トリスもまた、愛おしいと思った。
「……イヤじゃ……無い。どうか、カイの望むままに」
それが、最後の言葉になった。二人は、本能のままに、互いを貪り、とけ合い、絡みあい、ひとつづきの生き物のように抱き合ったのだった。