クラウンプリンセスの家庭教師
野心は寝所で育まれる
女ざかりとはよく言ったものだ、と、嬌声を上げて、自分の上で盛んに体を上下させている女を見てヴァルターは思った。病弱な夫では満足できないと、王妃と関係を持って既に数年経過している。本能なのか、他に何人もいる情人に仕込まれるのか、何度抱いても飽きない体に、つかの間溺れる。
王妃が、年老いた母の見舞いと称して実家で過ごす日は、決まって呼ばれ、朝から晩まで相手をさせられる。その実、老母の世話など、家人にまかせきり。さすがの淫乱も、夫のいる宮邸では、心置きなく男を連れ込めないという事らしい。
しかし、誰よりも己の欲望に忠実である事が、この家では美徳なのかもしれない。百年前、王の座を巡り、王の弟と息子が争った。敗れた息子は失脚し、幽閉されたが、双方に良い顔をし、『上手に』立ちまわった結果、側近であった一族は残った。王家と婚姻し、血を混ぜ、王族では無いが、それと同等か、それ以上の力を持った家。グリチーネ一族は、二人の王妃を出し、ついには女王がたつという。
当代当主は王妃の兄。まさにこの世の春を謳歌しているのだろう。
「ガイナは失敗したようですね」
薄いガウンを身にまとっただけの王妃を腕に抱きながら、ヴァルターは言った。
「本当に不甲斐ない、少々手荒にしてもよいと言ったのですがね」
娘の貞操の事など少しも意に介さない。これが本当に産み母親のする事だろうか。ヴァルターは呆れた。
「だから、私の方が適任だと申しているではないですか、王女は少々潔癖なところがございます。ガイナは、若い娘の好むような男ではないでしょう」
「王妃の愛人では不満?」
「女王の夫の座は魅力的ですよ」
王妃は不機嫌を顕にし、頬をふくらませてみせた。あと十年ほど若ければ、とても愛らしいであろう仕草も、さすがに少し滑稽だ。体を重ねる事に関しては、熟練の手練であるが、素の王妃は幼稚なお嬢様のままだ。誰よりも注目されたい。誰よりも大切に扱われたい。王子と信じて、十月十日、大切に大切に思った我が子が、男ではなく女であったその瞬間から、彼女にとって、子供は自分の立場をあやうくするだけの疎ましい存在になった。
王女は、トリスは、若くはあったが、既に幼くは無かった。王という役割を真剣に努めようとしている。彼女こそ、誰よりもわがままに振る舞える立場にあったはずだが、「王族とは」「王とは」と、常に自分に問いているようなところがある。
本当に親子なのだろうか。ヴァルターが王妃と床を共にするようになったのは、トリスが少女の頃だった。淫乱な王妃の事。王の病弱を理由にしていたが、おそらくトリスが生まれる前から、王以外の男を通わせていたのだろう。トリスとて、王の種では無いのかもしれないと疑った事もあったが、トリスの真面目さは、王妃では無く、王譲りのように思えた。
反面、あの高潔そうなトリスの中に、母親の淫らさが隠されているかもしれないと思うと、暴きたい衝動にかられる。無垢な乙女を大切に、優しくあばきながら、内なる欲望を少しずつあばき、従わせる事は、成熟した雌に翻弄されるよりも、己を昂ぶらせるものがあった。思いがけず、想像して、高ぶった自分自身が、いつの間にか王妃の指先で弄ばれ、さらに硬さを増してい事に気づいた。
「……まだ、足りないのですか?」
ヴァルターはため息をつき、しばし、王妃の指と舌の遊戯に身を委ねることにした。そういえば、象牙の塔から家庭教師が派遣されてくると聞いたが、どんな男が来たのだろうか。頭でっかちの学者肌か、象牙の塔でも扱いに困るほどの偏屈爺か、いずれにしろ、ヴァルターの存在を脅かすものではあるまいよと、再び王妃の体を貪る事にした。
王妃が、年老いた母の見舞いと称して実家で過ごす日は、決まって呼ばれ、朝から晩まで相手をさせられる。その実、老母の世話など、家人にまかせきり。さすがの淫乱も、夫のいる宮邸では、心置きなく男を連れ込めないという事らしい。
しかし、誰よりも己の欲望に忠実である事が、この家では美徳なのかもしれない。百年前、王の座を巡り、王の弟と息子が争った。敗れた息子は失脚し、幽閉されたが、双方に良い顔をし、『上手に』立ちまわった結果、側近であった一族は残った。王家と婚姻し、血を混ぜ、王族では無いが、それと同等か、それ以上の力を持った家。グリチーネ一族は、二人の王妃を出し、ついには女王がたつという。
当代当主は王妃の兄。まさにこの世の春を謳歌しているのだろう。
「ガイナは失敗したようですね」
薄いガウンを身にまとっただけの王妃を腕に抱きながら、ヴァルターは言った。
「本当に不甲斐ない、少々手荒にしてもよいと言ったのですがね」
娘の貞操の事など少しも意に介さない。これが本当に産み母親のする事だろうか。ヴァルターは呆れた。
「だから、私の方が適任だと申しているではないですか、王女は少々潔癖なところがございます。ガイナは、若い娘の好むような男ではないでしょう」
「王妃の愛人では不満?」
「女王の夫の座は魅力的ですよ」
王妃は不機嫌を顕にし、頬をふくらませてみせた。あと十年ほど若ければ、とても愛らしいであろう仕草も、さすがに少し滑稽だ。体を重ねる事に関しては、熟練の手練であるが、素の王妃は幼稚なお嬢様のままだ。誰よりも注目されたい。誰よりも大切に扱われたい。王子と信じて、十月十日、大切に大切に思った我が子が、男ではなく女であったその瞬間から、彼女にとって、子供は自分の立場をあやうくするだけの疎ましい存在になった。
王女は、トリスは、若くはあったが、既に幼くは無かった。王という役割を真剣に努めようとしている。彼女こそ、誰よりもわがままに振る舞える立場にあったはずだが、「王族とは」「王とは」と、常に自分に問いているようなところがある。
本当に親子なのだろうか。ヴァルターが王妃と床を共にするようになったのは、トリスが少女の頃だった。淫乱な王妃の事。王の病弱を理由にしていたが、おそらくトリスが生まれる前から、王以外の男を通わせていたのだろう。トリスとて、王の種では無いのかもしれないと疑った事もあったが、トリスの真面目さは、王妃では無く、王譲りのように思えた。
反面、あの高潔そうなトリスの中に、母親の淫らさが隠されているかもしれないと思うと、暴きたい衝動にかられる。無垢な乙女を大切に、優しくあばきながら、内なる欲望を少しずつあばき、従わせる事は、成熟した雌に翻弄されるよりも、己を昂ぶらせるものがあった。思いがけず、想像して、高ぶった自分自身が、いつの間にか王妃の指先で弄ばれ、さらに硬さを増してい事に気づいた。
「……まだ、足りないのですか?」
ヴァルターはため息をつき、しばし、王妃の指と舌の遊戯に身を委ねることにした。そういえば、象牙の塔から家庭教師が派遣されてくると聞いたが、どんな男が来たのだろうか。頭でっかちの学者肌か、象牙の塔でも扱いに困るほどの偏屈爺か、いずれにしろ、ヴァルターの存在を脅かすものではあるまいよと、再び王妃の体を貪る事にした。