強引社長といきなり政略結婚!?
『なんだその元気のなさそうな声は。まだ痛むか?』
元気がないわけじゃない。タイミングよくかかってきた電話に驚いたのと、もうひとつは朝比奈さんの名前を見て妙な動きをした私の心臓のせいだ。
初めて聞いた電話越しの彼の声が、やけに甘い。そんな声をしていたんだと改めて知って、胸が騒いだ。
「だ、大丈夫です。私も今、電話しようと思っていたんです」
『おっと。以心伝心ってやつ?』
電話の向こうで朝比奈さんがおどける。
茶化して返す余裕が今の私にはなくて、「ありがとうございました」となんの脈絡もなく言った。
『あの座布団どう? なかなかいい仕事してるんじゃないか?』
「私、痔じゃないんですけど」
なんとか語気を強める。そうでもしないと、私の中でなにかが変わってしまう気がしてならなかった。
『痛い場所は似たようなもんだ』
「似ていませんから!」