強引社長といきなり政略結婚!?
「いらっしゃいま――」
軽やかなステップを踏み出した足をそこで止める。最後の一文字は、歯の裏から息として漏れた。
ものすごい威圧感がドアから私に突進してくる。
私はその場で棒立ちしたまま動けなくなった。
「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」
どうしたのかと不思議そうに私を見てから、ゆかりちゃんがすかさず出迎える。
「わしがふたりに見えるのだとしたら、そなたは直ちに眼科へ行ったほうがよろしい」
「……はい?」
しわがれた声で淡々と言われたゆかりちゃんもまた、私同様に固まってしまった。
コンラッド開発の会長、一成さんのおじい様だったのだ。小柄なのに、存在感はこの場の誰よりも大きい。
私が動かないわけにはいかない。フロアに張り付いていた足を無理に剥がし、彼の前へと立った。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」