強引社長といきなり政略結婚!?
引きつる頬になんとか笑顔を浮かべ、ひとつだけ空いているテーブル席へと案内する。
お冷を取りに私が戻ると、ゆかりちゃんは「なんですか、あのおじいさん」と声をひそめながらも憤慨する。
会長を軽く睨むものだから、慌てて「ゆかりちゃん」と諌めた。
トレーにお冷を載せ、彼の元へと急ぐ。
待たせるようなことをしたら、今度は『のろまな足を医者に診てもらいなさい』とでも言われそうだ。怯えているのをひた隠し、笑みを顔に貼り付ける。
「ご注文をお伺いしてもよろしいでしょうか」
ところがおじい様ときたら、メニューを広げようともしない。深く腰をかけて腕組み。眉毛は阿修羅のごとく吊り上がっていた。
私を見上げる目に震え上がりそうになる。そこをぐっとこらえ、意識して口角を上げた。
「コーヒーは、真紀の淹れるもの以外は飲まん主義だ」
真紀さんは、朝比奈家の家政婦さんだ。
「腹も減っとらん。なにも注文するつもりはない。お嬢さんも、わしがなにをしにここへ来たのかはわかっておるじゃろう?」