強引社長といきなり政略結婚!?

「いいから、遠慮しないで使え」

「――えっ」


不意にハンカチで私の手を拭き始めた。
一瞬茫然としてしまったものの、すぐに気を持ち直して手を引っ込める。
ところが、そうしたところで手は外れない。意外にもがっちり掴まれていた。

顔をしかめて睨んだのに、彼に動じる気配はまったくなし。
無理やり私の手を拭い終わると、ハンカチをそのまま握らせた。


「汚れたままでいいと言いたいところだが、洗って返してくれ」


……へ? こういう場合、“そのまま返してもらう”か“洗わなくていいよ”じゃないの?
ハンカチを汚しておきながら、不義理なことを考える。


「汐里さんに会う口実になるからね」

「――なっ」


彼があまりにもストレートなものだから、返す言葉すら見つからない。


「じゃ、今日はこのくらいにしておこうかな」

「“今日は”って、もう今日限りにしてください」

「それは無理。それ、お気に入りなんだ」


満足気に笑いながらハンカチを指さす。そして自転車にまたがり、悔しいくらいに優雅な空気をまき散らしながら去っていったのだった。

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