強引社長といきなり政略結婚!?
「ごめんね。車で来たの」
『車、でございますか? 朝比奈様のお車ですか?』
「あ、ううん、違うの」
電話の向こうから疑問に思うような空気が漂ってくる。
それじゃいったい誰なのだというところだろう。浩輔くんの車だと言ったら、また多恵さんがほうきを持ちだしかねない。私に護衛をつけるように父に願い出るかもしれない。
余計なことは言わないほうがいいだろう。
「ともかく大丈夫だから。……あれ?」
どこへいった?
スマホを耳に当てながら、その場でくるっとひと回り。
『どうかなさいましたか?』
「あ、うん、手袋がね……」
どこにも見当たらないのだ。
「庭に落ちてなかったよね?」
『はい、ございませんでしたが……』
さっき車で外した記憶はあるから、浩輔くんの車に乗った時には確かにあったはず。
コートのポケットを片手でまさぐるけれど、やはりない。だとすると、浩輔くんの車だ。
『汐里様?』
まいったな。浩輔くんが私に会いにくる口実ができてしまった。
『大丈夫でございますか? 手袋がないんですか?』
「ううん、大丈夫」
決してそうは言い切れない。
多恵さんの質問とは噛み合わない答えになってしまったけれど、ひとまずそう言って多恵さんを納得させた。