強引社長といきなり政略結婚!?

「結婚がどうとか……」


――なにそれ！

多恵さんを置いてリビングへとスリッパの音を響かせて向かった。勢いよくドアを開け、その場に仁王立ちする。
向かいのソファには多恵さんの言っていたとおり、彼が座っていた。私が乗り込んだことで一瞬目を丸くしたものの、すぐに「こんにちは」と穏やかな笑みを浮かべる。軽く右手を上げて、まるで恋人にでも挨拶しているような仕草だ。

手前に座っていた父と母がゆっくりと振り返る。


「汐里じゃないか。もう少し静かに入ってこられないのかね？」

「本当よ、汐里ったら」


両親揃って私を諌める。

父は今年で五十五歳。年の割に豊富な黒髪はオールバック。顔は日焼けで年中黒く、奥二重の涼やかな顔立ち。すらっとしているせいか、身長が百七十五センチでも高く見える。
若いころはフランス映画に出てくる有名な俳優に似ていると、かなりモテたそうだ。

母は父より四歳年下の五十一歳。肩まであるナチュラルブラウンの髪を耳にかけ、くるくるとよく表情の変わる目は一重瞼なのに大きい。