強引社長といきなり政略結婚!?
実は大学を卒業後、父親から強制され、花嫁修業という名目で料理教室やお茶に生花、それから着付けと、いわゆるお嬢様のたしなみを習わされていた。
世間で言うところのお嬢様の私が、どうして喫茶店でアルバイトをしているのかというと、簡潔に言ってしまうと父の会社が傾きかけているから。
私の父は、関東近郊に【藤沢ゴルフ倶楽部】というゴルフ場を七つほど経営している。
その会社はここ数年、右肩下がりが続き、いよいよ財務整理の手前にまできてしまったのだ。
家がそんな状態なのに、呑気に“お嬢様”をやってはいられない。少しでも家計の足しになればと思い仕事を探していたところ、たまたま通りかかったこの店に“アルバイト募集”の張り紙を見かけた。
迷っている猶予はない。カランコロンと鳴るドアをくぐり、『雇ってください!』と頭を下げた。
快く私を雇ってくれたマスターの田辺さんは、四十五歳でふたりの子持ち。オーナーを探していたこの店に、脱サラで飛び込んできたらしい。
なんでも、昔から喫茶店をやるのが夢だったそうだ。
細身で背が高く、肩まである髪をうしろでひとつにまとめている。彫りが深く焼けた肌は、沖縄出身ということを聞いてうなずけてしまった。
店内はお昼までまだ一時間あるけれど、徐々にお客で埋まりつつある。