強引社長といきなり政略結婚!?

春はもう少し先。冷たい雨が体を芯から冷やしていく。
今は、一成さんのおじい様のことを考えたくなかった。心まで凍りついてしまいそうだったから。

どうやって帰ろう。こんなに濡れていたらタクシーにも乗れない。電車もバスも、何事かと思われてしまうだろう。歩いて帰るにしても、どっちへ向かったらいいのかわからなかった。

左手には球場。右手にはその駐車場。見たことのない景色だった。

頭の中は真っ白。車を飛び出してから、どのくらい経っただろう。
ただ惰性で足を前へ出していると、雨の音に紛れて、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた気がした。


「汐里!」


――もしかして浩輔くんが……?

恐る恐る振り返ると、暗がりの向こうから走ってくる人影が見えた。反射的に背を向けて駆けだすと、私の名前をもう一度呼びかける。

この声って……。

足を止めてゆっくりと振り向く。
街灯に人影が浮かび上がった。


「……一成さん?」

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