強引社長といきなり政略結婚!?

嘘でしょ……。
ここに現れるはずのない一成さんだったのだ。

立ち尽くす私の前に、同じく傘を持たない一成さんが足を揃えた。息を弾ませたまま両ひざに手を突き、呼吸を整える。
私同様に全身ずぶ濡れだ。髪が額に張り付いている。


「どうして……?」

「それはこっちのセリフだ」


まだ肩を上下させながら、一成さんが苦しそうに言葉を吐き出す。


「ごめんなさい」


意図していなかったこととはいえ、浩輔くんとふたりきりになってしまったことも。
一成さんを雨の中、走らせてしまったことも。
そしてなにより、おじい様をあんな目にあわせてしまったことも。
私には、謝ること以外にない気がしてならなかった。


「とにかく行こう」


一成さんが私の肩を抱きながら、来た道を戻り始める。彼はひと言も発しなかった。

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