強引社長といきなり政略結婚!?

私たちが婚約するまでは、なにかにつけて茶々を入れてきた日下部さんだけに、一成さんの中ではその印象が未だに強いらしい。
その上、一成さんは二週間という長期に亘る海外出張から今朝帰ったばかり。

疲れているところへきて、車で再び移動しさらに取材とは……。
一成さんが不機嫌顔なのもわからなくはない。

当初は、一成さんの実家でおじいさまと一緒に住む予定でいた私たち。
ところがおじいさまの『孫夫婦の邪魔はしたくない』というひと声で、急きょ新居を探すことになった。
一成さんが決めたのは、実家まで車で五分とかからず、なにかあればすぐに駆けつけられる距離にある低層のマンションだ。

今回のインタビューはその新居で行なわれる予定だったが、一成さんは『ふたりの愛の巣に招くつもりはない』とこれを拒絶。
それならばと、日下部さんが手配したのが今回訪れている山のリゾート地だった。

同行してきた社内報の編集スタッフは大泉さんという男性がひとり。目も鼻も口も小ぶりな丸顔に、ふわふわな天然パーマが目を引く。
さっきからその大泉さんは、私たちをソファに座らせて熱心に写真を撮っていた。


「一成さん、もう少し笑ってあげて」


なかなかいい写真が撮れないらしく、大泉さんは困り顔だ。

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