強引社長といきなり政略結婚!?
料理の出来上がりを待ちながら、厨房を背にしてゆかりちゃんと並んでいると、彼女が私の腕をツンツン突いた。
「汐里さん、あそこのお客さんを見てください」
背伸びをしたゆかりちゃんが、私の耳元に向かって声をひそめる。
彼女がそっと指差す先を辿っていくと、そこには三十代前半くらいのサラリーマン風の男の人が四人掛けテーブルにひとりで座っていた。
注文したものはまだきていないらしく、雑誌のようなものを読み耽っている。
「カッコイイんです」
ゆかりちゃんのひそめた声が弾む。
……カッコイイ?
もう一度そちらを見て観察する。
まず目に入ったのは、意思の強そうな眉だった。男性にしては綺麗に整えられたアーチ形。細い鼻梁も見事に通っている。サラサラの髪の毛は店内に差し込む太陽の光に透けて、美しい亜麻色をしていた。
そしてなによりも目を惹いたのは、彼の醸し出すオーラだった。昭和の匂いがプンプンするこの店に似つかわしくない、どこか高貴めいたものを感じる。