強引社長といきなり政略結婚!?

そうすれば、朝比奈さんの言動にいちいち動揺せずに済んだのに。

なにも言えずにいると、彼はおもむろに運転席から降り立った。助手席へと回り込み、ドアを開ける。私の目の前に手を差し出してきた。

それを握れということらしいけれど、ここはひとまず見えなかったことにする。そのくらいの抵抗しか思いつかない私は、なんて幼稚なんだろうか。
自分で車を降り、「では、失礼します」と彼に頭を下げる。

彼が笑みを浮かべている気配を感じた。
扱いにくい女だという苦笑いかもしれない。
私が歩きだすと、「おやすみ、汐里」と背中に彼の声がかけられた。


玄関のドアを開けると、そこには胸の前で手を組み、祈りを捧げるかのように立ち尽くす多恵さんがいた。私を見て、「汐里様!」と私の腕にすがりつく。


「ご無事でよかったです」


いつものように心配していたようだ。


「突然、あの方に連れ去られてしまったものですから、私はもう心配で心配で。旦那様も奥様も、なんの心配もいらないとおっしゃったのですが、やはりいてもたってもいられなくて」

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