強引社長といきなり政略結婚!?

田辺さんに注文を告げ、ゆかりちゃんの隣に立った。


「この前は楽しかったって、どういうことですか?」


それ以上大きくできないというほど、彼女が目を見開く。私たちの会話を聞いていたようだ。


「汐里さんってばー」


無言を貫いていると、話を聞かせてとばかりに私の腕を掴む。次々に完成する料理をお客へと運ぶ隙をついて、ゆかりちゃんは「教えてくださいよー」としつこく食い下がった。
朝比奈さんをチラッと見てみれば、なにかの本を熱心に読み耽っている。

彼に聞こえないように、「うちに来たの」とゆかりちゃんの耳元で言うと、思いのほか大きな声で「ええ!?」と驚いた。
一瞬だけ店内のお客の視線を集めてしまったものの、それを気にすることもなく、「どういうことですか!?」と続けざまに聞く。


「ゆかりちゃん、小さい声にしてね」


人差し指を私の唇に当てて“しー”という仕草をすると、彼女はペロッと舌を出した。

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