強引社長といきなり政略結婚!?
ゆかりちゃんとふたり、顔を見合わせて肩をすくめた。
朝比奈さんが食べ終えたのは、それから少ししてからのことだった。会計を済ませ、「また来るよ」と手を振る。
私の代わりにゆかりちゃんが手を振り返してくれた。
彼が店から出て行き、大きく息を吐き出す。
気づかないうちに肩に力が入っていたみたいだ。
「汐里さん、汐里さん」
朝比奈さんのいたカウンターを片づけていたゆかりちゃんが、私を手招きする。
「忘れていっちゃったみたいなんです」
そう言って彼女が私に見せたのは、黒皮の手帳だった。多分、朝比奈さんのものだろう。さっき、これを広げているのを見た。
それを手に取り、慌てて店の外へと出る。ところが、左右のどちらを確認してみても、朝比奈さんの姿は見えなかった。
仕方なしに店内に戻ると、ゆかりちゃんは私がまだ手帳を持ったままだったことに気づき、「間に合いませんでしたか」と眉尻を下げた。
「それ、汐里さんが届けてあげてくださいね」