カミュと真笛
第1章
カミュ・ウェブスターは、母親を日本人に、そして父親をアメリカ人にもつ日系人である。
幼少の砌よりゴルフに明け暮れ、当年とって28歳となった現在では、世界ランキング上位保持者となった。
その恋人の真笛(まふえ)は、カミュ・ウェブスターよりも8歳年上だ。
その真笛が、今日もゴルフの練習に朝から勤しんでいるカミュに声をかけた。
「朝から芋堀りですか?」
「ゴルフの練習にしか見えないでしょうが!!」
カミュが鋭く突っ込む。
「もう、カミュさんたら、単なる『ツカミ』じゃないですか~。そんなに激しく突っ込まなくても~」
真笛が「ど~も、こりゃ、困りましたね」と言わんばかりに、カミュを諭す。
「真笛さんはほっとくと暴走しますからね。最初が肝心なんですよ」
カミュも負けじと応戦する。
「それで、どれ位の大きさの芋が出て来たんですか?」
「それが結構大きいのが、って、そんなワケないでしょう!!」
「あら、カミュさんも、『ノリツッコミ』が上手くなって。これで、立派なコメディアンになれますね♪♪」
「って、俺は、プロゴルファーですっ!!」
「でも、ある日突然気が変わって、転職、ってなことにも・・・」
「なりませんから!!」
「ですが、人生、何が起こるか分からないですよ? ある朝、突然目が覚めると、ミスター・ビーンみたいなコメディアンさんになってたりするかも知れないじゃないですか?」
「んなワケあるか!! 大体、何気なく、何、『カフカ』の『変身』をパロってるんですか!!」
「あら? お気に召しませんか? でしたら、ある朝、突然目が覚めると、『軍人』か『聖職者』になってる、なんてのはいかがです?」
「今度は、『スタンダール』の『赤と黒』ですか?! 真笛さん、しつこい!!」
「じゃあ、次は・・・・。ある朝、突然目が覚めると、・・・・『ハンス』と云う名の受験生に・・・・」
「『ヘルマン・ヘッセ』の『車輪の下』じゃないですか!! でも、今度のは分かり難い!!」
「なかなか、付いてきますね~、相棒」
「誰が相棒ですかっ!!」
「じゃあ、次はですね~」
「いい加減にしてください!! もうすぐ、四大メジャー大会の一つがあるんです!! 付き合いきれませんよ!!」
カミュはさっさとゴルフの練習に戻ろうとする。
そんなカミュを覗き込みながら、真笛が言う。
「・・・カ~ミュさん♪♪ 因みに、カミュさんは・・・『モッケイ』と云うお話をご存知ですか・・・?」
「『モッケイ』? ですか?」
「そうです、『モッケイ』です。カミュさんのような方でも、知らないお話があるのですね~」
真笛が意外そうな笑顔で頷く。
「では、お話します。あのですね。中国の昔に、『荘子(そうじ)』と云う偉い先生がいらっしゃいましてね。その名も『荘子』と云う本に残っているお話なのです」
真笛が続ける。
「その中国の昔に『紀渻子(きせいし)』と云う闘鶏のすご~い名人がいらしたのですって。ある時、その時の王さまから、闘鶏を一羽お預かりして、育てることになったのです」
10日が経った頃、王が紀渻子に言った。
「どうだ、預けた一羽はもういいのではないか?」
「いえ、まだです。やみくもに殺気立って、しきりに敵を求めています」
それから、10日を経て、王が再び訊いた。すると、紀渻子は、
「いえ、まだです。他の鶏の声を聞いたり、気配を感じますと、すぐさま闘志を溢れさせます」
更に10日が過ぎてから、王が三度目に尋ねた。
「いえ、まだです。他の鶏を見ると、殺気立って、睨みます」
そして、また10日を経て、王が訊くと、今度は、紀渻子はこのように答えた。
「もうよろしいでしょう。傍で、鶏が鳴こうが挑戦してこようがどうしようが、何ら動じません。まさに木で作られた鶏、『木鶏』のようでございます。その徳は極まりました。こうなったら、どんな相手でも敵いません。他の鶏の方が逃げていくでしょう」
「・・・と、まあ、こういうお話なのです」
「なるほど・・・・」
カミュが「うんうん」と頷いている。
「ですから、カミュさんも、そんなに私につんけんなさらずに。大人しく、私の相方を務めてくださ~い」
「って、なんでそうなるんですかっーーーーーー!!」
やっぱりカミュが厳しく突っ込む。
一方、真笛は真顔になった。
「でも、このお話に戻りますけど、このお話って、こういう段階を経て行かないと、『木鶏』にはなれないってことですよね~? そう、お思いになりません? カミュさん?」
「なるほど。確かに、そうですね」
カミュが頷く。
「じゃあ、カミュさんは、間違いなく、『木鶏』になる手順を踏んでる、ってコトじゃないですか~」
「そうとも言えますね」
彼が両手を打った。
「良かったですね~。『木鶏』も遠い日じゃありませんよ」
「そうかな~」
カミュが照れくさそうにしている。
「と云うことで、『モッケイ』も遠くないので、今日は私の相手してくださいっ♪♪」
「さっきの俺の話、聞いてましたっ?! 俺、大会近いんですよっ?!」
「まあまあ、かたい話はやめにして~」
「俺は木で作られたかたい『木鶏』に近いかもしれないけど、この人は、『ふにゃふにゃ鳥』だーーーーっ!!」
幼少の砌よりゴルフに明け暮れ、当年とって28歳となった現在では、世界ランキング上位保持者となった。
その恋人の真笛(まふえ)は、カミュ・ウェブスターよりも8歳年上だ。
その真笛が、今日もゴルフの練習に朝から勤しんでいるカミュに声をかけた。
「朝から芋堀りですか?」
「ゴルフの練習にしか見えないでしょうが!!」
カミュが鋭く突っ込む。
「もう、カミュさんたら、単なる『ツカミ』じゃないですか~。そんなに激しく突っ込まなくても~」
真笛が「ど~も、こりゃ、困りましたね」と言わんばかりに、カミュを諭す。
「真笛さんはほっとくと暴走しますからね。最初が肝心なんですよ」
カミュも負けじと応戦する。
「それで、どれ位の大きさの芋が出て来たんですか?」
「それが結構大きいのが、って、そんなワケないでしょう!!」
「あら、カミュさんも、『ノリツッコミ』が上手くなって。これで、立派なコメディアンになれますね♪♪」
「って、俺は、プロゴルファーですっ!!」
「でも、ある日突然気が変わって、転職、ってなことにも・・・」
「なりませんから!!」
「ですが、人生、何が起こるか分からないですよ? ある朝、突然目が覚めると、ミスター・ビーンみたいなコメディアンさんになってたりするかも知れないじゃないですか?」
「んなワケあるか!! 大体、何気なく、何、『カフカ』の『変身』をパロってるんですか!!」
「あら? お気に召しませんか? でしたら、ある朝、突然目が覚めると、『軍人』か『聖職者』になってる、なんてのはいかがです?」
「今度は、『スタンダール』の『赤と黒』ですか?! 真笛さん、しつこい!!」
「じゃあ、次は・・・・。ある朝、突然目が覚めると、・・・・『ハンス』と云う名の受験生に・・・・」
「『ヘルマン・ヘッセ』の『車輪の下』じゃないですか!! でも、今度のは分かり難い!!」
「なかなか、付いてきますね~、相棒」
「誰が相棒ですかっ!!」
「じゃあ、次はですね~」
「いい加減にしてください!! もうすぐ、四大メジャー大会の一つがあるんです!! 付き合いきれませんよ!!」
カミュはさっさとゴルフの練習に戻ろうとする。
そんなカミュを覗き込みながら、真笛が言う。
「・・・カ~ミュさん♪♪ 因みに、カミュさんは・・・『モッケイ』と云うお話をご存知ですか・・・?」
「『モッケイ』? ですか?」
「そうです、『モッケイ』です。カミュさんのような方でも、知らないお話があるのですね~」
真笛が意外そうな笑顔で頷く。
「では、お話します。あのですね。中国の昔に、『荘子(そうじ)』と云う偉い先生がいらっしゃいましてね。その名も『荘子』と云う本に残っているお話なのです」
真笛が続ける。
「その中国の昔に『紀渻子(きせいし)』と云う闘鶏のすご~い名人がいらしたのですって。ある時、その時の王さまから、闘鶏を一羽お預かりして、育てることになったのです」
10日が経った頃、王が紀渻子に言った。
「どうだ、預けた一羽はもういいのではないか?」
「いえ、まだです。やみくもに殺気立って、しきりに敵を求めています」
それから、10日を経て、王が再び訊いた。すると、紀渻子は、
「いえ、まだです。他の鶏の声を聞いたり、気配を感じますと、すぐさま闘志を溢れさせます」
更に10日が過ぎてから、王が三度目に尋ねた。
「いえ、まだです。他の鶏を見ると、殺気立って、睨みます」
そして、また10日を経て、王が訊くと、今度は、紀渻子はこのように答えた。
「もうよろしいでしょう。傍で、鶏が鳴こうが挑戦してこようがどうしようが、何ら動じません。まさに木で作られた鶏、『木鶏』のようでございます。その徳は極まりました。こうなったら、どんな相手でも敵いません。他の鶏の方が逃げていくでしょう」
「・・・と、まあ、こういうお話なのです」
「なるほど・・・・」
カミュが「うんうん」と頷いている。
「ですから、カミュさんも、そんなに私につんけんなさらずに。大人しく、私の相方を務めてくださ~い」
「って、なんでそうなるんですかっーーーーーー!!」
やっぱりカミュが厳しく突っ込む。
一方、真笛は真顔になった。
「でも、このお話に戻りますけど、このお話って、こういう段階を経て行かないと、『木鶏』にはなれないってことですよね~? そう、お思いになりません? カミュさん?」
「なるほど。確かに、そうですね」
カミュが頷く。
「じゃあ、カミュさんは、間違いなく、『木鶏』になる手順を踏んでる、ってコトじゃないですか~」
「そうとも言えますね」
彼が両手を打った。
「良かったですね~。『木鶏』も遠い日じゃありませんよ」
「そうかな~」
カミュが照れくさそうにしている。
「と云うことで、『モッケイ』も遠くないので、今日は私の相手してくださいっ♪♪」
「さっきの俺の話、聞いてましたっ?! 俺、大会近いんですよっ?!」
「まあまあ、かたい話はやめにして~」
「俺は木で作られたかたい『木鶏』に近いかもしれないけど、この人は、『ふにゃふにゃ鳥』だーーーーっ!!」