オフィスに彼氏が二人います⁉︎
今、何言われたんだろう……?
今のはさすがに聞き間違いだよね?
チラ、と久我くんを見れば、久我くんも口を開けたまま驚いている様子だけど……。
一方の時山部長は、ニコニコと私たちを見ている。
ワインが運ばれてきて、お店の人が注いでくれる。
普段ワインはあまり飲まないから、いつもだったらテンションが上がるタイミングだっただろう。
でも、今はそれどころじゃない。
ショート寸前の思考回路で、ボンヤリとそのワインを見つめるくらいしかできなかった。
それは多分、久我君も同じだった。
ウェイターさんが去ると、時山部長は慣れた手つきでワイングラスを持つ。
そして。
「二人とも、そんなに深刻な顔しなくても。俺と久我くん、二人がフラれるくらいなら、とりあえず二人と付き合ってみたらいいんじゃないかな、ってだけだよ」
そう言うのだけれど……。
「……そんなの、いくらなんでも非常識じゃないですか」
そう言ってくれたのは久我くんだった。
私もそうだと思う……。二人と、なんて聞いたことないよ……。
だけど時山部長は、久我くんにこう返す。
「君さ、俺に遠慮してるよね?」
「え?」
「まあ、俺は君の上司だもんね。遠慮するのはわかるけど、俺は怒らないから、本音で話してほしい。上司と部下という関係じゃなく、同じ女性を好きになった恋のライバル同士、腹を割って話してほしいんだ」
「えと……」
「俺がこの提案をしたのは、嵩元さんのためだ。俺と君、どちらと付き合うのが嵩元さんにとって幸せなのか、彼女自身でじっくり考えてほしかったから。でも、久我くんがこの話に乗らないのなら、俺はそれでも構わないよ。
俺はなんとしてでも、彼女を自分のものにする。君に負けるつもりは一切ない」
「……俺だってそんなつもりない!!」
突然、久我くんが声を荒げた。
私は驚いて彼の真剣な横顔を見つめることしかでないけれど、時山部長は表情を崩すどころか、”予定通り”とでも言いたげな笑みを浮かべている。