オフィスに彼氏が二人います⁉︎
なっ?と言って、ニコッと明るい笑顔を見せてくれる久我くんに、私は思わず安心して、「……うんっ」と返した。


そんな私の顔を見て、久我くんはなぜか一瞬固まる。


久我くん?と彼の名前を呼ぶと。


「……あ〜〜。正直、今すぐにそこの柱の陰に隠れて……キスしたい」

「えっ⁉︎」

「でも、しない」

「へっ⁉︎」

私はさっきから間抜けな返事をしてばかりだ。

久我くんは腕を組んで、何かを思い返すような表情を見せ。


「金曜日のあの夜、七香が電車に乗ってから、部長と約束したんだ。
抜け駆けは禁止。
本当は、抜け駆けしまくりたいよ。普段、部長は本部にいるわけで、一緒に営業室にいる俺の方が七香と過ごす時間は圧倒的に多いんだから。
でも、しない。
七香にはわからないかもしれないけど、男と男の約束っていうのはそういうもんだ。
男はプライドもあるしな。約束破るのは男じゃねえんだ」

久我くんの言葉は、理解できるような、よくわからないような……とりあえず、曖昧に「うん」と答えた。



「じゃあ、まあ。今日も一日、よろしく頼むぜ」

「うん」

私が首を振ると、久我くんは先に営業室に入っていった。


金曜日に二人に告白されてから、モヤモヤしたり動揺したりの連続だったけど、『いつも通りでいい、無理しなくていい』っていう久我くんの言葉が、うれしかった。


……顔がなんだかちょっとだけ熱いけど、気のせいだよね?


私も、もう一度深呼吸をしてから、営業室に入った。
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